キオクノカケラ

「兎街結城さん…ですね?」


高くも低くもないその声にゆっくりと後ろを振り返ると、

男のくせに長い黒髪を後ろで一つに束ねた長身の男が、嫌な笑みを浮かべていた。


「…あんた誰だい?」


「僕が聞いてるんですよ。

…兎街結城さんですね?」


聞いてるもなにも、確信があって聞いてるくせによく言うぜ。

そう言いたいのをぐっと飲み込んで、不本意ながらも頷く。


「…そうだけど」


「単刀直入に言います。
神無月詩織さんはどこですか?」


「…………」


こいつ……。

危険だ。

一見透き通るような蒼い瞳は、よく見ると底知れぬ深い海のような暗さが渦巻いている。


これは

何人もの人を消してきた人間の瞳だ。

オレの返答次第で何のためらいもなく章を殺すだろう。


ほんの、蚊を殺す程度の気持ちで。


そんな奴に下手なことは言えない。

どうする………!


「やれやれ。答えてくれないんなら、こちらにも考えがあります」


「…………」


彼はわざとらしくため息をつくと、オレを一瞥して章を見た。

チャキ…

それと同時に背後でおこる銃の動く音。

恐らく章に銃が押しつけられたのだろう。

くそ…っ

どうする!

考えろ…考えるんだ!!


「頭領!何を迷っているんですか!!」


「っ……」


思わず後ろを振り返る。

馬鹿!今は大人しくしてないと――…。


「僕のことを気にする必要はありません、早く……―――っ!!」


嫌な予想が当たった。


「章っ!」


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