キオクノカケラ
どうしよう。
どうしよう、どうしよう、どうしよう…!
さっきからずっとこの言葉が頭を駆け巡っていた。
話は今から30分くらい前にさかのぼる。
『これを被ってここに隠れてるんだ』
結城くんにそう言われて、しばらくじっとしていると、
突然響き渡る一発の銃声と、結城くん、章さんの声。
それに知らない人の声。
何かあったんだ!
そう確信して、いてもたってもいられなくて、
内心結城くんに謝りつつ、言いつけを破ってこっそりとトランクの隙間から外を伺うと、
そこには太ももを赤く染めた章さんと、
冷や汗を流しながら目を見開く結城くん。
そして、撃った張本人であろう一人の男の人が、無表情のまま手に持った銃から煙を上げていた。
思わず飛び出したくなる衝動を必死に抑え込んで、
少し震えながら成り行きを見守っていると、
結城くんが男の人に取引のようなものを持ち掛けた。
よく会話は聞こえなかったけど、これからどこかへ行くことは分かった。
そのとき、
ほんの一瞬
ほんの一瞬だけど、
男の人と目が合ったような気がした。
そして車が発車する前に再びトランクの下に隠れていたんだけど……―――。
いざ目的地に着いて、静かになってから外に出てみると、
大きな赤い屋根の建物の裏側らしきところだった。
そして冒頭に戻る。
あぁ、どうしよう、これから。
つい出てきちゃったけど、
ここ……どこ?
キョロキョロと辺りを見回しても周りにあるのは木、木、木!
そして後ろには赤い屋根の建物。
ぐるっとこの建物を辿れば、何とかなるかもしれないけど、
もし男の人やその人の仲間と鉢合わせでもしたら…。
そう考えるといまいち歩が進まない。
「だめだよ…私が行かないくて、誰が行くの…!」