キオクノカケラ

…どういうことだ。

あいつは、どうしてそんなに自信ありげなんだ?

詩織は車のトランクの下に隠れているはず。

何があっても絶対出るな、と言ってある。

仮に出たとしても、この倉庫はオレにしか開けられない。

入れるわけがない。

なのにどうして……。


「その、後ろのロッカー」


ふいに柏木が指差す。

それを辿るように後ろを向けば、案の定誰の姿もなく、

ただ大小の異なる無数のロッカーが、無表情に立ち並んでいる。

そのたくさんのロッカーの中で、柏木はただ1つのロッカーを指差していた。


「これが、どうかしたのかい?」


「そこに、詩織はいます」


「なっ……」


そんな馬鹿な!

どうして倉庫の中の、しかもロッカーの中に詩織がいるんだ。


「開けてみれば分かります」


「…………」


本当にいるのか…。

いや、いるわけない。

入り口をくぐったのは、確かにオレと柏木の二人だけだったはず。

絶対にいるはずないと、断言できるのに、オレは頬に冷たい汗が伝うのを感じた。

大丈夫……。

きっと詩織はいない。

大丈夫だ…。

そう自分に言い聞かせて、ロッカーの横にあるパスワードを入力すると、

オレは静かに扉を開いた……―――。

< 111 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop