キオクノカケラ
思い切って扉を開けると、
そこにはただ闇が広がっているばかり。
詩織の姿はどこにもなかった。
よかった……。
思わず安堵の息を漏らすと、顔を引き締めて振り返る。
すると、額に当たる黒いもの。
「お前…」
「嘘も方便って言うじゃないですか」
騙したな、と言うよりも早く微笑む彼に、オレも負けじと不敵な笑みを返す。
「それって、時と場合にもよると思うけど?」
「僕にとっては、今が『その時』なんですよ」
くそっ…。
オレとしたことが、とんだ馬鹿をした。
あんな嘘も見抜けないなんて……。
どうする…。
絶体絶命。
今のオレにはこの言葉がぴったりだ。
まぁ…でも、
入り口は閉めてあるし、中から開けるにもパスワードと指紋認証がいる。
どうせこいつは出られない。
外から開けられるのも、あとは章一人だし、たとえオレが死んでもこいつ…―――柏木は逃げられない。
「この状況で笑っていられるなんて、あなたも大した器の持ち主ですね」
無意識のうちにオレは笑っていたらしい。
正直、そんなに笑っていられるほど余裕ないんだけどね。
「別に…オレを殺すのは勝手だけど、お前はここから逃げられないよ」
「脅しなら、通用しませんよ」
「脅しじゃない。
この倉庫は中にもパスワードと指紋が必要でね。
開けられるのはオレだけだ」
「…………」
柏木は一瞬動きを止めて、考える素振りを見せたあと、無表情のままオレの額にさらに銃を押し付け、
口の両端を上げて冷たく言い放つ。
「それなら、外から開けてもらうまでですから。
あなたはいなくても大丈夫ですよ」
「ッ…………」
「さようなら」
そう言って、彼は引き金に指をかけた。