キオクノカケラ

オレ、ここで死ぬのか…。

頬に冷や汗を流しながら、奥歯をかみ締める。

そのとき。


「やめて…っ!!」


ふいに後ろから響く声。

オレの大切な、愛しい人の。

驚いて後ろを振り返ると、目に涙を浮かべた彼女が確かにいた。


「詩、織……?
お前…―――」


どうしてここに…、そう言うよりも早く彼女は勢いよくオレに抱きついた。

このまさかの状況には柏木も驚いたようで、目を見開いて微動だにしない。


「詩織…どうしてここにいるんだい?
車の中にいたんじゃ……」


「ごめんなさい、約束破って…。
外で銃声がして、思わず見ちゃったの……」


あぁ、章が撃たれたときか…。


「章さんが、撃たれてたのを見て…私、いてもったてもいられなくて…」


なるほど。

車から出た理由は分かったけど、でも一体。


「どうやって倉庫に入ったんだい?」


「倉庫の裏の壁にぶつかったら、壁が外れて…そのまま落ちたらロッカーの中だったの」


「…………」


倉庫の壁が外れたって…そんな設計、オレはした覚えないぞ?

………あ、あいつか…!

ふと頭に浮かんだのは、ニカリと笑うオレの親友でもある隼(はやと)の顔。

もともとこの倉庫の建築を任せたのは隼の会社だしな。

急に黙りこんだオレに不安を抱いたのか、詩織が上目遣いでオレの顔を覗き込んでくる。


「結城くん…怒った?」


「…あぁ、そうだね。かなり」


「……だよね…」


しゅん、とうなだれる彼女があまりにも可愛くて、つい抱き締めたくなるが、今はそれどころじゃない。

オレはできるだけ優しい笑みを浮かべると、そっと詩織の頭を撫でた。


「結城、くん…?」


「説教は後でするとして、今はオレのそばから離れるなよ。
絶対だ」


「…うん。約束」


詩織はこくりと頷きながら、オレの袖を掴んだ。

その手を上から重ねるように握って、微笑むと、彼女もつられるように微笑んだ。

そして柏木を見据える。

大丈夫…オレは負けない。

絶対に…。


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