キオクノカケラ
男の人に聞くと、目を伏せて軽く俯いてしまった。
代わりに結城くんが答える。
「詩織…お前は知らなくていい」
「どうして?私のことなんでしょ?」
「…………」
「結城くん、私前にも言ったよね?
自分のことが知りたいの」
まっすぐ彼の目を見て言う。
どれだけ私が本気かを、見てもらうために。
「っ……」
彼の瞳が一瞬揺らいだのが分かった。
このまま話してくれるんじゃないかと思ったけど、
そうもいかなかった。
「……いや、だめだ」
「結城くん!」
思わず声が大きくなる。
結城くんは顔を背けて、口を一切開こうとはしない。
どうして話してくれないの?
きっと大事なことなのに…。
自然と私も俯く。
男の人も目を伏せたまま。
誰一人として目を合わせようとする人はいない。
重い沈黙が続く。
その沈黙を破ったのは、今まで目を伏せていた彼だった。
彼は目を伏せたまま、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎだす。
「……………僕は、神無月グループが所有している数多くの会社の中の息子。
君の婚約者だよ。…“元”だけどね。
そして、詩織のお祖父さんのことについての証拠を隠滅したのも…――」
彼はそこで一旦言葉を切ると、伏せていた目を上げて
まっすぐ私を見据える。
「―――……僕だ」
とても真剣で、綺麗な瞳。
さっきまで銃を向けていた人とは思えない。
それだけに、この一言がすごく重く聞こえた。
「くそっ……」
隣で結城くんが拳を握り締める。
悔しそうに、顔を歪めながら。
「結城くん…」