キオクノカケラ

心配そうにオレを見つめる詩織に、思わず顔を背けた。


「………お前には、知って欲しくなかった…」


やっとのことで搾り出した声は、自分でも驚くくらい掠れていて。

詩織は何か言おうとしたが、すぐに口を閉じてしまった。


「…柏木、お前は一体何が目的だ?」


「それならさっきから言っているでしょう?
詩織に会いたかった…ただそれだけですよ」


嘘だ。

こいつは嘘を吐いている。

そんな直感とも言える考えが、頭をよぎった。


「……詩織に会って、どうするつもりだったんだい?
自分の罪を告白するためだけって訳じゃないんだろう?」


「ふふ、あなたは本当に頭が良いですね。
話が早くて助かりますよ」


何となく、

何となくだけど、予想はついてる。

わざわざ人気のない場所にオレを誘い込んで、詩織を探す理由。

それは…―――。





「詩織に改めて結婚を申し込もうと思いましてね」




―――やっぱりな。

ちらりと詩織を見やれば、少しの間時間が止まっていた。

そして、急速に顔を真っ赤に染め上げると…。


「えっ…え、えええええぇぇぇぇええええ?!」


少し上ずった高い声が、倉庫中に響いた。


「はは、予想通りの反応です。
それにひきかえ…」


柏木は楽しそうに笑うと、オレの顔を見て口元に笑みを浮かべる。


「あなたは驚かないんですね?」


「まあね。
…予想通りってやつかな」


オレも負けじと挑戦的に微笑めば、彼は少しだけ眉を潜めた。


「…あまり頭が良すぎるのも面白みに欠けますね。
まぁ、いいでしょう」


彼はわざとらしくため息をつきながら、詩織の前に肩膝をつく。

そしてそっと右手を差し出すと、柔らかな笑みを浮かべて優しく問いかけた。


「お返事をいただけませんか?詩織」


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