キオクノカケラ

「詩織っ!」


急に頭を抱える詩織を抱き締めると、彼女の体は少し震えていた。


「フラッシュバック…ですか?」


「…多分ね。
あんたの何かが引き金になったんだおかげで」


「そんな目で睨まないでくださいよ。
僕は、何もしてませんよ?」


やれやれ、と立ち上がる彼をなおも睨み続けながら、相手の動きを待つ。

腰に隠してある拳銃を触りながら。


「っ…うっ…」


すると、詩織が固く閉じていた目をそっと開いた。


「詩織…大丈夫かい?」


「うん…大丈夫。ありがとう」


彼女の笑みに安堵の息をつく。

だが不覚にもそれに気をとられて、

一瞬、オレは柏木から警戒を逸らしてしまった。


カチャリ、と後ろから聞こえた嫌な音。

その音の正体が何なのか、大体予想しながら後ろを振り返ると。



案の定、少し離れた所から銃を構えた柏木が立っていた。


「柏木…なんのつもりだい?」


「…詩織があなたを好きだと言うなら、


・・・・・・・・・・
あなたがいなくなれば、詩織は僕に振り向いてくれますよね?」


「…………」


「な…っ」


そう短く叫んだ詩織の顔は、みるみる内に青ざめていく。

…なんとかして詩織だけでも逃がさないと。

それにはまず、相手の注意を引かなきゃならない。


「………詩織」


「な、なに?」


「オレがあいつを引き付ける。
その間に入り口まで走るんだ。
そしたらこれを使って外へ逃げろ」


小声でそう伝えて、こっそりとマスターキーを渡す。

詩織はおずおずとキーを受け取ったものの、分かったとは言わなかった。

代わりに言ったのは、


「結城くんは?」


「え………?」


「私だけ逃げて、結城くんはどうするの…?」

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