キオクノカケラ

一瞬、何が起こったか分からなかった。

いきなりパンッ、という音が響いたかと思ったら、

結城くんの右足から赤いものが染み出してきて、青いジーンズを濃い紫色に染めていった。

それを見た私は、叫ぶことも、泣くこともできず、ただ呆然としていただけ。

でも確かに頭は働いていて。

頭に浮かんだのは一つだけ。



結城くんが危ない。



このままじゃ撃たれちゃう。

殺されちゃう。

そんなのいや…っ。

そう思ったら、気がついた時にはもう、彼の前に立ちふさがっていた。


「詩織っ!
何やってんだ!早くどけ!!」


「…どかない」


「馬鹿っ!お前が相手にできる奴じゃない!」


「結城くんだって、その足じゃ無理でしょ?」


「ッ…!…オレは大丈夫だよ、大丈夫だから…っ」


後ろで必死に結城くんが私を止めようとしてるけど、絶対どかない。

正直恐い。

自分が震えてるのが分かる。

心臓だって、さっきから煩いほど脈打ってる。

でも結城くんを失うのはもっと怖い!


「私だって……私だって結城くんを守りたいのっ!」


「……っ」


「…………」


背後で結城くんが息をのむ音が聞こえた。

目の前の彼は何も言わず、ただただ冷めた瞳で私を見ているだけ。


パンッ


鋭い痛みが頬を掠める。

でも私は動かない。

今にも崩れ落ちそうな膝に力を入れて、まっすぐ彼を見据える。


パンッ

パンッ

パンッ


腕に、肩に、太ももに鋭く銃弾が掠める。

ズキズキとそれらが痛むけど、唇を噛み締めて、なんとか耐えた。


「強情な人ですね、あなたも。
せっかく外してあげたというのに…」


彼はわざとらしくため息をつくと、静かに私の心臓に狙いを定めた。

そして口の両端を上げると、そっと引き金を引いた。


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