キオクノカケラ
「いっ……」
銃を弾き飛ばされた振動で、ビリビリと痛む手に、僕は思わず顔をしかめた。
まさかあの状態で的確に、銃を狙ってくるなんて。
油断した。
…たいした腕前だよ。
頬に嫌な汗が流れるのを感じながら彼を見ると、
彼は詩織に何かを耳打ちしているところだった。
さっきよりもしみが広がってきている。
顔色も悪いし、息も荒い。
立っていること事態が異常だ。
そう長くはもたないだろう。
…でも、確実に殺さなきゃいけない。
あいつを守るためには、それしかない…。
唇を噛み締めながら胸ポケットの銃に手を伸ばすと、
乾いた音と共に、鋭い痛みが頬を掠めた。
「今から少しでも動いてみろ。
次は頭…狙うぜ」
兎街は肩で息をしながらも、口元に笑みを浮かべていた。
ほんと、なんて奴だ。
僕は小さく息を吐いて、おとなしく手を挙げた。
すると、詩織がおずおずと近づいてくる。
「健斗…私、お金も権力も何もないけど……
………一緒に戦うから」
「…………」
「一緒に、考えるから…」
「…しお―――」
「だから、そんな泣きそうな顔しないで…?」
そう詩織が言ったのと同時に、僕はあたたかいものに包まれた。
それが、詩織によって抱き締められたからだと気づいたのは、しばらく経ってからで。
なぜか、すごく安心できた。
そういえば、昔も僕が辛いときこうやって抱き締めてくれたっけ…。
記憶はなくても、そういうところは前と変わらない。
僕もそっと抱き締め返すと、詩織は一瞬体を強張らせた。
「健、斗……?」
「…………ありがとう」
そう小さく呟いて兎街を見ると、彼も優しく笑っていた。
その笑顔は詩織へではなく、確実に僕へと向いていて、
僕も自然と笑っていた。