キオクノカケラ
第11章
手術中の赤いランプが嫌に目に付く。
結城くんを病院に運んでからもう2時間が経つ。
先生も、看護師さんも、誰一人として出てこない。
結城くん……。
顔の前で組んだ両手に力を込めると、肩にポンと手が乗せられた。
その手を辿ると…―――。
「章さん…」
「大丈夫ですよ、頭領は。
あれでいて、結構タフですからね」
「はい……あの、章さんの方こそ、足は…」
「あぁ…なんともありませんよ、このくらい。
ですから……そこのあなたも気にする必要ありませんよ…?」
「…………っ」
章さん…目が。
目が笑ってませんよ。
健斗が珍しく怯えてるじゃないですか…。
「章さん…そのくらいにしておいてあげて下さい。
健斗も、反省していると思いますから」
苦笑を浮かべて健斗に視線を移す。
章さんも彼を見ると、一見爽やかな笑みを浮かべた。
「……後ほどゆっくりとお話しましょう」
「…………お手柔らかに」
章さんの笑みの奥に隠された、黒いものに気が付いたのは私だけじゃなかったらしく、
健斗も頬に冷や汗を流しながら口角だけを上げていた。
それを見て、思わず頬が緩んだとき、ふいに声をかけられた。
「兎街結城さんの付き添いの方ですか?」
「あ…はい」
驚きつつも返事を返せば、手に黒い回覧板のようなものを抱えた看護師さんは、
少し焦ったように私たち全員の顔を見ながら言う。
「実は、B型の血液なんですが…前の患者さんに大量に輸血してしまっていて足りないんです。
血液センターを待っている時間もありません。
どなたか合う方はいらっしゃいませんか?」
B型……私はA型だし…。
ちらりと章さんを見ると、珍しく眉を潜めていた。
…きっと章さんも違うんだ。
なら健斗は……―――。
「……僕B型です」
そう一歩前に踏み出したのは今まさに考えていた健斗で、私は安堵の息を吐いた。
しかしそれも束の間。
低い章さんの声に、私の体は凍りついた。