キオクノカケラ
「……き」
誰だ…?
「ゆ……き」
誰かが、オレの名前を呼んでる。
いつも聞いてるような、
でもいつもと違う、すごく懐かしい声。
「結城っ」
…この声は…―――。
「詩…織……?」
そっと目を開けると、ぼやけた視界に映る白。
鼻につんとくるような薬品の臭い。
―――ああ、そうか。
オレ、病院にいるんだ。
まだ少しぼーっとする頭を、徐々に覚醒させながら
静かに起き上がろうとしたところで、わき腹の辺りに鋭い痛みが走る。
「っ……」
思わず顔をしかめると、右手に何か違和感を感じた。
そちらに顔だけを向けると、小さな寝息をたてて眠る詩織の姿。
オレの右手は彼女によってしっかりと握られていて、
その隣には椅子に座って壁に背を預けて眠る隼の姿があった。
――オレ…生きてる……。
詩織の手のぬくもりを感じながらふとそう思う。
それと同時に、さっきの夢も思い出す。
あれ、詩織の声だよな…。
記憶を無くす前の。
オレのこと、「結城」って呼んでた。
…懐かしいな。
詩織が失踪して再会するまで、
まだ半年も経っていないのに、しみじみと感じる。
「詩織…………」
小さく名前を呼んで、そっと手に力を込めてみる。
けど彼女が起きる気配はなく、わずかに身動ぎをしただけだった。
そしてその代わりに、
「ん……結城?
目ぇ覚めたのか」
隼が目を覚ました。