キオクノカケラ
「よかった……目、覚ましてくれて……。
ほんとに…、よかったぁ……っ」
詩織は何度もそう繰り返しながらオレを抱き締めた。
小刻みに震える体と、途切れ途切れに聞こえる嗚咽。
今、こんなに彼女を泣かせているのが自分だと思うと不甲斐ない。
オレはそっと体を離して、指先で詩織の目に溜まった涙をすくいとる。
そしてまっすぐ顔を見つめると
彼女の頬がうっすらと線上に切れているのを見つけた。
……あぁ、オレを庇ったあの時に…―――。
そう思うと、胸がぎゅっと苦しくなる。
「……ごめんな」
小さく呟いた声は、自分でも驚くくらい低くかすれていた。
「……結城くん?」
「守るって約束したのに、オレ―――」
あんな危険な目に遭わせて
怪我させて
泣かせて…。
「オレ、最低だ……」
「…結城くん」
心配そうにオレを見つめる若草色の瞳。
その視線から逃れたくて、自分から離した体をもう一度引き寄せた。
その時傷に鋭い痛みが走って
思わず出そうになった声を喉の奥で押し殺す。
それでも、一瞬オレの身体が強ばったのが分かったのか
詩織は戸惑いながら、控えめに手をまわした。
そして、オレの肩に額を置く。
オレも彼女の首もとに顔をうずめた。
詩織の柔らかな髪からは甘いフローラルの香りが漂い
少しだけ、気持ちが落ち着いたような気がする。
目を閉じて、その安らぎに身をゆだねていると、ふいに詩織が声を発した。
「……結城くん」
「…なんだい?」
「ありがとう…」
「え……?」
思わず聞き返したオレの声は、ひどく間抜けなもので
それを笑ったのか、詩織は小さく肩を震わせた。
「ふふ…結城くん、声裏返ってるよ」
「ちょっと…驚いてね」
「どうして?」