キオクノカケラ

「どうしてって…それは………」


まさか、礼を言われるなんて思ってなかった。

たくさん危険な目に遭わせて

怪我もさせて

何度も泣かせた。


…全部、オレの力不足だ。

それなのに……。


「……私、結城くんにたくさん助けてもらったよ?

たくさん守ってもらった。


そのせいでひどい怪我させちゃって…。

ごめんなさい。




でもね、嬉しかったよ。


本当に、ありがとう」


詩織は、まるでオレの心を読んだかのように言葉を紡ぐと

喋りながら顔をあげて、オレを見つめた。

ふわりと微笑む彼女はとても綺麗で、とても儚く見える。

………そしてオレは、この表情を知っている。






    ・・・
これは、あの時と同じ。



何かを決心した時にみせる表情(カオ)。






「しお…――」
「結城くん」


オレが名前を呼ぶよりもはやく、彼女は声をあげた。

少し強くて、勝ち気な感じのある

少し懐かしい声音。


「結城くん、私ね」


なぜだろう。

この先は聞きたくない。

…聞いてしまったら、また詩織が離れていってしまうような気がして。


なんとか口を挟もうにも、真剣かつ儚い表情の彼女を見ると、声も言葉もでない。

結果的にそれは、彼女の言葉をただ聞くことになる。





「…私ね、






結城くんが好き」








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