キオクノカケラ
「…私ね、
結城くんが好き」
意を決して伝えた言葉。
ちらりと彼の顔を見ると、それを聞いた張本人は
嬉しそうな
悲しそうな
複雑な表情を浮かべていた。
…そうだよね。
結城くんが好きなのは、私だけど私じゃない。
彼が本当に好きなのは、
“記憶を無くす前の私”
……今の、私じゃない。
そう思うとなんだか泣きそうになってきて
それを誤魔化すために、結城くんの胸に体を預けた。
すると彼は私を優しく抱き締めて、そっと囁く。
「オレも、好きだよ」
あたたかみのある、低くて甘い声。
彼の言葉に、嘘偽りはないだろう。
…ただ、自分の本当の気持ちに気づいていないだけ。
でも、頭のいい彼のことだ
もしかしたら心の奥では分かっているのかもしれない。
そしてそのことに気がつかないふりをして、
私を好きだと思っているのかもしれない…。
間違ってはいないけど
ちょっと違う…。
……難しいところ。
「……詩織?」
全く反応を示さない私を不振に思ったのか、結城くんが私の名前を呼ぶ。
駄目…このままじゃ、結城くんの優しさに甘えそう―――。
私は唇をぎゅっと噛み締めると、そっと彼を押す。
「…詩織……?」
再び彼が不思議そうに私の名前を呼んだ。
私は結城くんに笑顔をみせて、乗り上げてしまったベッドから降りる。