キオクノカケラ
「結城くん、今まで本当にありがとう。
今私がこうしていられるのも、笑っていられるのも全部、結城くんのおかげ」
「…一体、どうしたんだい?
いきなり、そんなこと…―――」
彼は眉をひそめて、怪訝そうに私を見つめる。
それに対して私は、笑顔をみせるだけ。
……私は今
うまく笑えてるだろうか。
笑って誤魔化すなんて卑怯だって分かってる。
でも、何て話せばいいのか分からない。
…正直に話してしまえば楽になるんだろうな。
むしろ全力で協力してくれるだろう。
私のために
たとえ自分に危険が迫ろうとも。
また怪我をしてしまうかもしれない。
下手したら、今度こそ死んじゃうかもしれない…………。
そんなの絶対に嫌。
もう、大切な人が傷つくのを見たくない。
だから私は選んだ。
結城くんから離れる、
という選択を。
「私、健斗と結婚することにしたの」
静かにそう伝えれば、結城くんは大きく目を見開いた。
「………何を、言ってるんだい?」
彼にしては珍しく声を震わせていて、驚愕を隠せないようだった。
それでも私は笑みを崩さないまま続ける。
「さっき婚約してきて、近いうちに結婚することになったの」
「なっ……!」
「…今日からは、健斗の家に住まわせてもらうことになったから」
「…………」
顔が自然と下がり、目が合わせられない。
…彼はどんな表情を浮かべているのだろう。
怒っているのか。
悲しんでいるのか。
喜んでいるのか。
彼は一言も言葉を発することもなく黙っているし、
俯いている私に、それを知る術はない。
「今まで、お世話になりました」
最後にそうつけ加えてお辞儀をしてから、
私はくるりと彼に背を向けた。