キオクノカケラ
ドアの方を見ると、そこには難しい表情をした章が立っていた。
「章………」
「頭領…先程詩織さんが走って出ていきましたね。
声をかけましたが、何も言わずに行ってしまいました。
………一体、何があったんです?」
彼はベッドの脇にある椅子に腰掛けて尋ねる。
オレはくしゃりと前髪をかきあげると、それにため息をつきながら答えた。
「そんなの…こっちが聞きたいくらいだ」
なぜ、こんなことになってしまったのか。
詩織に一体何があったのだろう…?
いきなり婚約だなんて…。
誰に何を吹き込まれた?
何の目的で―――。
一人思案していると、章が鋭い瞳でオレを見ていることに気付いた。
あぁ、早く話せってね…。
オレは苦笑を浮かべてから、枕に寄っ掛かって視線を天井に向けた。
「…詩織が、婚約をしたらしい………」
「……柏木健斗と、ですか?」
案外あっさりとその名前が出てきたことに内心驚きつつ、
オレは無言で頷いた。
「そうですか…。
やはりあの時に…―――」
「あの時ってなんだい?」
我ながら鋭い反応だったと思う。
けど、それほどまでに聞き捨てならない言葉だった。
章は真剣な面持ちで周囲を見渡すと、声をひそめてゆっくりと話し出した。
「まだ頭領が眠っているとき、詩織さんがずっと付いていたのですが
…一度だけ、病室を抜けたときがあるんです―――」
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『おや、詩織さん。
何かありましたか?』
『!あ、章さん…。
いえ、お手洗いに…ちょっと……』
『…そうですか。
呼び止めてしまってすみません』
『い、いえ…いってきます』
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「僕はあの時、あからさまに様子がおかしかった詩織さんの後をつけてみたんです。
すると、そこで……―――」
「………あいつか…」
それを聞いたオレは、ようやく状況を理解することができた。
諸悪の根源は…あいつか。