キオクノカケラ
「……私、もう帰るから」
涙ぐんだ声にならないように気をつけながら。
ゆっくり、はっきりと彼を拒絶する。
それから荷物を取りに行こうと、彼に背を向けようとしたが。
それは叶わなかった。
「結城くん…、…離して」
強く掴まれた右手。
病院の時とは比べものにならないほど、力強い。
「離してってば!!」
なんとか振りほどこうと腕を振り回しても、彼の手が外れることはなく。
むしろより強く力が込められる。
「結城くん……っ!」
私は彼の名前を叫びながら、腕を振り解こうと俯いていた顔を上げた。
その瞬間。
「っ……!」
すぐ目の前にある結城くんの顔。
唇に触れる、暖かくて柔らかい感触。
拒否しようと思えば出来たはずなのに。
それは出来なかった。