キオクノカケラ
「オレはね、今起こっていることのいきさつや、誰が関わっているかは全部知ってる。
でも、詩織。お前の気持ちだけはオレには分からない。お前が、自分の口で言ってくれるまで」
結城くんの真剣な表情の中に、少しだけ別の感情が見え隠れする。
それは、悲しそうにも見えたし、怒っているようにも見えた。
でも相変わらず口調は淡々としたまま。
「……詩織、どうして黙ってたんだい。
オレのことが、まだ信用しきれない?」
私はぶんぶんと首を振る。
「違う、そんなことない…!」
「だったら、どうして……」
「だって…話したら結城くん、また無茶しようとするでしょ?
私のために、自分のこと犠牲にするでしょ?!
そんなの嫌なの!
何もできずに、私だけ守ってもらってばっかり。
自分のせいで、大切な人がたくさん傷ついてるのに……っ!」
頭の中に、血だらけで真っ青な顔をした結城くんの姿が今でも残ってる。
あの時、もう二度と目を開かないんじゃないかって、すごく不安だった。
どんどん冷えていく身体。
浅くなる呼吸。
目の前で、命の灯が消えかかっているのを初めて見た。
しかもそれは、とても大切な人で。
もしこれが消えてしまったら…。
そう思うと目の前が真っ暗になって、心臓をぎゅっと掴まれたような気がした。