キオクノカケラ


お前が傷つくところを見たくないから。




これが本音だけど、そんなこと言ったら。

彼女はまた怒ってしまうだろう。

何て言えば彼女は納得してくれるだろうか。

最善の答えを模索していると、オレが答えるよりも先に

彼女が言葉を発した。


「私が傷つくところを見たくないから」


「………え……」


「図星、でしょ。
結城くんなら、そう思ってるんだろうなって思ったよ」


詩織は頬に流れる涙を乱暴に拭うと、キッとオレを睨み付ける。


「ばか!」


「しお……」


「ばか!ばかばかばかばか!」


今まで生きてきて、こんなにばかと言われたことがあっただろうか。

いや、なかった。

物心つく前から、オレは大きな会社の社長の息子。

会社で一番偉い人の『息子』という肩書きだけで、

自分よりも遥かに年上の大人たちから敬語を使われ、

誰からにも気を遣われながら育てられてきた。

そんな環境で、自分をばか呼ばわりする奴なんているわけない。

そんなの、詩織くらいだ。


< 150 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop