キオクノカケラ
お前が傷つくところを見たくないから。
これが本音だけど、そんなこと言ったら。
彼女はまた怒ってしまうだろう。
何て言えば彼女は納得してくれるだろうか。
最善の答えを模索していると、オレが答えるよりも先に
彼女が言葉を発した。
「私が傷つくところを見たくないから」
「………え……」
「図星、でしょ。
結城くんなら、そう思ってるんだろうなって思ったよ」
詩織は頬に流れる涙を乱暴に拭うと、キッとオレを睨み付ける。
「ばか!」
「しお……」
「ばか!ばかばかばかばか!」
今まで生きてきて、こんなにばかと言われたことがあっただろうか。
いや、なかった。
物心つく前から、オレは大きな会社の社長の息子。
会社で一番偉い人の『息子』という肩書きだけで、
自分よりも遥かに年上の大人たちから敬語を使われ、
誰からにも気を遣われながら育てられてきた。
そんな環境で、自分をばか呼ばわりする奴なんているわけない。
そんなの、詩織くらいだ。