キオクノカケラ

みんながマンションを出ると、

部屋には私と章さんのふたりきりになった。


さっきまで騒いでいた分、静かになった部屋がなんだか寂しい。


窓の外を眺めていた章さんは、ふと何かを思い出したかのように

私に振り向いた。


「そういえば……詩織さん、少し付き合ってもらえますか?」


「?はい」


何もすることがなかった私は、おとなしく章さんに着いていくことにした。


玄関を出てから、目を閉じていて下さい、

と言われて目を閉じる。


手をひかれて、階段を登る。


見えないと結構怖いかも……

階段踏み外しそう。


やっと階段を登り終わると、ガチャンと扉が開く音がして

冷たい風が頬をかすめる。


「ここって…屋上ですか?」


なんとなく想像で屋上だと考えた私は、目を閉じたまま章さんにそう尋ねる。


「そうですよ、詩織さんは相変わらず聡いですね。」


さとい…?

章さんの答えは少し難しくて、私は首をかしげた。


くす、と笑われたのが分かる。


そして、彼の顔が近づいてくるのが気配で分かった。


結城くんの時のことで、つい反射的に身構える私に

耳元で囁いた。


「目を開けて下さい」


私は静かに目を開ける。



「………うわあ……」

目の前に広がるのは、キラキラと光輝いた夜の街だった。

街全体を一望できる屋上から見る夜景は、言葉もでないほど幻想的で


綺麗だった。


そう、まるでここは……


「“まるでここは夜空みたい、人工の光が幾千万と輝く星のよう…”」


屋上のドアのほうから聞きなれた声がした。

振り向けばそこには、壁に背を預けるひとりの少年…。

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