キオクノカケラ
「ったく…思ったよりも手間取ったな」


会議がようやく終わり、

思ったよりも会議が長引いたことに苛立ちを覚えながら、歩く速度を速める。


さっき、ロビーで恵たちとすれ違ったから

今、部屋には章と詩織のふたりきり。




………心配すぎる………



エレベーターの階数が徐々に上がっていく。


……47……48……49……50

さっさとエレベーターから降りて、部屋に向かう。


部屋の側のかどを曲がろうとすると

話し声が聞こえて、足を止める。


気配を殺して、そっと陰から見ると、


「……詩織と、章……?」


一体なにを…。

ん…?


ふと、章と目があった。

何やら不適な微笑みを浮かべてくる


ちっ…食えない野郎だぜ


心の中で舌打ちをしたオレは、彼をにらみ返す。


そんなオレを放って、章は詩織を連れてどこかへ行こうとしていた。


これ以上ふたりきりになんてさせるかよ。

こっそりとふたりの後ろを着いていくと、どうやら屋上へ向かってるらしく

詩織の手をひいて、屋上への階段を登る章の姿が見えた。



ああ、そういうことか

章は、詩織に夜景を見せるつもりなんだ。

オレが連れていこうと思ってたんだけどね


「………うわあ……」


詩織の感激を表す声が、ドアのほうまで聞こえた。


キラキラと顔を輝かせて、周りを見回す詩織。



あいつの喜ぶ顔に免じて、

今回ばかりは許しといてやるよ


彼女の喜ぶ顔を見て、オレも顔が綻ぶ。

お前は、前からここが好きだったね。

そして、決まってこう言うんだ。


「“まるでここは夜空みたい、人工の光が幾千万と輝く星のよう…”」


ってね。

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