キオクノカケラ
「え、えっと………」


話を変えたかったから

なんて言えないし……


「詩織?」


「はい!!えっとですね……」


なんて言えばいいのー!!

笑顔でじりじりと近づいてくる結城くん。

思わず身を引いても、手をぐっと引かれて彼の元に引き寄せられる。


「っ……」


彼の顔がだんだん近づいて、目をぎゅっと瞑る。

自然とからだに力が入る。


彼は小さく笑うと、耳元に囁いた。


「ねえ、詩織?」


その声は、チョコレートに生クリームをのっけたように甘ったるくて、


心臓がバクバクいってる

静まってよ…
私の心臓。


「その位にしてあげたらどうです?頭領」


「…………」


章さんの言葉でようやく解放された私は、ほっと息をついた。

助かった……

そういえば、
……とうりょう……?
それって結城くんのことだよね?

何で名前で呼ばないんだろ



……………。


これがあったか!!!


「それだよそれ!!」


「は?………」


いきなり大声を出したことに驚いたのか、結城くんは怪訝そうな顔をした。


「だからっ、章さんって、結城くんのこと“とうりょう”って呼ぶでしょ?
なんでかなあって」

「ああ、そのことか」


彼は軽くため息をつくと、ボフッと音をたてて背もたれに背を預けた


そして、頭をくしゃっと掴む。


「簡単にいうと、上司と部下…かな」


「そうですね」


「上司と…部下?」


首を傾げてふたりを見比べる私に、結城くんは優しく笑かける。

その笑顔にまたドキッと反応する、私の心臓。


「オレさ、一応小さな会社の社長だしね。
頭領っていうのは、海軍のリーダーのことだよ」


「しゃっ…社長??!海軍?!
ちょ…結城くんって一体………」


何者?!


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