キオクノカケラ
リビングに入ると、ソファーに足を組んで座り、雑誌を読んでいる女の人がいた。

まだ20代前半くらい…

金が混じった茶髪の髪を巻いた綺麗な人。


「あの…」


控えめに声をかけると、

視線だけを私に向けて、見るとすぐに雑誌に目を落とした。

私に全く関心がないようだ。

でも家にいるってことは叔母さんの家族ってこと

挨拶をしないわけにはいかない。

右手を胸のところにもっていって、軽く拳を握る。


「え、と。私……」


「神無月詩織、記憶ないんだって?」


私の言葉を遮って、淡々と言った。

そして雑誌を閉じて、私を正面から見据える。


「あ、あの…
あなたは?」


彼女は戸惑う私を見て、軽く笑うと足を組み直した。


「あたしは夏希。ここん家の娘」


「叔母さんの娘さん…ですか?」


夏希さんは私の質問にこくりと頷いた。


「そうよ。ついでに、あたし子持ちだから」


背もたれに手を掛けて、「玄関にいたのがそう。見たでしょ?」と肩を竦めた。


この人は私に冷たく当たらないのかな…?

いい人ならいいんだけど………


でも子持ちって…

まだ20代前半っぽいのに、あの子…輝くんは5歳くらいだよね?


今20歳だったら15の時の子?!




ますます困惑した表情の私を見て、面白そうに笑うと

ニヤッと不適な笑みを浮かべた。


「アンタさ、この家に置いてあげるんだから、しっかり働きなよ」


そう言うとまた雑誌を読み始めた。


働く?

それって洗濯とか掃除のこと?


私はこの時、そんな呑気なことを想像していた。




夏希さんの不適な笑みと“働く”の意味なんて、全然考えてなかったんだ…。


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