キオクノカケラ
結局私は、見ないフリをしてきたんだ。


無理矢理

仕方なく

そんな言葉はただの言い訳にすぎない。

心の中で何度も謝った。

ごめんね…

ごめんね……っ


謝ったって許されるわけがない。

謝るなら最初からやらなきゃいい

助けてあげればいい



頭では分かっているのに、行動に移せなかった。

殴られるのが怖くて…

自分を守るために


ただそれだけのために、何人もの子供を犠牲にしてきた…。



**********************




「…………」


ふたりとも黙って話を聞いてくれた。

私が話している時も一度も口を挟まなかった。


きっと、嫌われた。

最低な人だって…

きっとすぐに追い出される。


そんなことを思うと、ぐらぐらと視界が揺れてくる。

そして、膝の上で握っていた拳の上に冷たいものが当たった。


何回も…何回も…

手の甲を伝って、服にも染みをつけた。


この涙も、自分のため

追い出されて、またあの家に戻らなくちゃならないんじゃないかという…

……不安

それが産み出した涙。


ホント最低だ…私。


拳をぎゅっと爪が食い込むほどに強く握ると、

その上に、私よりも大きい手が重なった。


手の持ち主は、結城くんだった。


私を見て、優しく笑うと私の手を軽く握った。


「そんなに強く握るなよ。痛いだろ?」


そう言うと、私の頭を自分の胸に引き寄せて、抱き締められた。

そのまま、優しく頭を撫でてくれる。


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