キオクノカケラ
「………あの」


「えっ…ああ悪いね、なんだい?」


「あの、だから、あなた誰なんですか?私のこと知ってるの?」


「っ……ああ、知ってるよ。」


俯いた顔を上げた彼は、一瞬顔を歪めたけれどすぐに微笑んだ。


「…あなた名前は?」


「…っ……詩織、本気で覚えてないのかい?」


「覚えてないのって聞かれても……何の話しなの?私、あなたに会ったことあるんですか?」


「……そう、だね……」


「…あの…?」


俯いた顔を再び上げた彼は、唇のはしを上げて微笑んだ。

その顔は笑っているけど、どこか寂しげで、

私はまた胸がしめつけられた。

哀しそうに笑う人。

そんな印象をもった。


「オレは…結城(ゆうき)。…兎街(とまち)結城…」


「とまち…ゆうき…?兎街くん?」


「結城って呼びなよ」

「じゃあ…結城くん?」


「…くん、は……いや、何でもない」


「?」


どうかしたのかな。
不思議に思う私から目を逸らして、結城くんは背後を向き、歩き出した。

肩越しに振り返り、人差し指で私を招く。


「でも……」


買い物が…と言うより先に彼は、私の腕をぐいっと引っ張って、自分の元に引き寄せた。


「大丈夫、オレがなんとかする。だから…オレを信じて着いてきてくれ。」


…頼む、と耳元で囁かれて

顔に熱が集まっていくのがわかる。

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