キオクノカケラ
オレはドアを蹴り破って中に入ると、

部屋の隅に男の子がいるのを見つけた。


その子は、中くらいの熊のぬいぐるみを持って驚いたようにオレを見つめている。


「お前が晴輝か?」


そう尋ねれば、立ち上がって五本指を突き出してきた。


「うん。ぼく、たちばなはるき。5さい!お兄ちゃんは?」


「たちばな……橘晴輝か。オレは兎街結城、苦しくないか?」


名前を言って、中腰になって目線を合わせてやると、

こんな状況なのにニコニコ笑って、「へいきだよ!」と元気よく頷いた。



笑ってられるならまだ大丈夫だろう。


けど、急いだほうがいいな………。


とりあえず玄関に戻ろうと晴輝を抱き上げると、

階段を駆け降りた。


そして、まだかろうじて出れそうな玄関をくぐろうとすると。


「お兄ちゃん!!上!!!!」


晴輝の叫び声で上を見れば、

燃えた天井がミシミシと嫌な音をたてて降ってきた。


当たったら確実に死ぬ。

オレは咄嗟に地面を蹴って後ろへ下がる。


ガターンッ


天井が抜けて、ドアの入口が塞がれた。


なんとか下敷きにはならなくて済んだが、出られない。


けど後ろも燃えている。

自分から火に飛び込むようなことはできない。


どうする…


「ごほっ…ごほごほ……おい、大丈夫か?」


「けほっ………う、うん」


だいぶ煙も増えてきて、息苦しくなってきた。


このままじゃもたない………!



周りを見渡せば、辺り一面火の海。



このままじゃヤバい……。

オレも、こいつも。


唇を噛み締めて、抱き上げる腕に力を込めると、

いきなり晴輝が大声をあげた。


「リビング!リビングならあんまり火がきてないかもしれないよっ」


「リビング?どこだ、どこにある?」


「そこ!」


指差すほうを見ると、柱が2本寄っ掛かって、

アーチ状態になったところの奥のドアが目についた。



あのドアを壊して行くか…

けど、もし失敗したら柱の下敷きだ。


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