キオクノカケラ
成功率は五分ってとこか……。


「お兄ちゃん!火が!!!」


「……迷ってる暇はないってね…」


オレは決断をくだすと、下がれるだけ後ろに下がった。


「晴輝、しっかり掴まってろよ…」


「うんっ」


オレも晴輝をぎゅっと抱き締めると、

晴輝に火がかからないよう庇って、背中で思いっきりドアをぶち破った。


その瞬間に、ガコンと柱が倒れる音。


まさに間一髪…。



「危なかったな……」


「うん…」


思わずポツリと呟くと、それに晴輝も頷いた。


これでもうリビングにしか居られなくなった。

窓を突き破って出るしかないな。


そう考えて部屋を見回すと、オレは絶句した。


テーブルに椅子、ソファーにテレビ。

電話や棚、生活に必要なものは全部あるのに、


「窓が……ない」


壁が全部真っ白だった。


「おい…晴輝。窓がないんだけど」


「うん、リビングはないよ」


「“リビングは”ってことは他にはあるのか?」


「あるよ」


晴輝は、こんな状況なのにニコニコと笑いながら答える。

その笑みは、悪戯が達成できた時のように、満足そうな笑顔だった。


「お前……何を企んでいる?」


オレは晴輝を降ろすと、

しゃがんで手を晴輝の首に当てて、目を見る。


これをやるのは、脈の速さと瞳孔の開き具合を見るため。

これで嘘をついているかどうかが分かる。


そして、そのまま晴輝にもう一度問いかけた。


「お前は、何を企んでいるんだ?」


「くすくす…企んでたんじゃなくて、仕組んだんだよ」


「仕組んだ…?」


―…一体何のために…―


オレは探るような視線を送ると、晴輝は悪戯っぽく笑った。


そして不気味なくらい満面の笑みで、晴輝は続ける。


「そうだよ。お兄ちゃんを、あの家から遠ざけるために」


「あの家……?」


脈も特に速まってないし、瞳孔の動きに変化もない。

どうやら、嘘はついていないようだ。


オレは晴輝から手を離すと、思考を巡らせる。


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