キオクノカケラ
すると、詩織の叔母夫婦の家が浮かんだ。


こいつ……あいつらの仲間か…?

てことは………!


「詩織!!
お前なら知ってるんだろ?!詩織に何をしたんだ!!」


オレは晴輝の肩を掴んで、揺さぶる。


けど、俯いたまま一言も喋ろうとしない。



そんな晴輝に苛ついて、つい声を荒らげる。


「答えろよ!詩織は…詩織は無事なんだろうな?!」


「っ……おい!!」


何か言え!と口を開きかけた時、

掴んでいる肩から、微妙に震えているのが伝わった。


その時オレの目は、怒りに染まっていただろう。


なぜならそれは、泣いているような震えじゃなくて

笑いを堪えるような震えだと、すぐに分かったから。


「お前……っ!!」


一発殴ってやろうかと立ち上がった瞬間、

ふいに晴輝が俯いていた顔を上げた。

その顔は面白そうに笑っていて。


「くすくす。こんなに取り乱すなんて、お兄ちゃんらしくないね」


「……いや、世界一を誇る水軍の別当らしくない。かな」


ふふ、と微笑む顔は、5才の子供とは思えないような

邪気に満ちた顔だった。


おいおい…章でもこんな顔したことないぜ?




オレは今まで溜めていた息をゆっくりと吐き出すと、

晴輝の肩から手を離した。


……まずは、こいつの正体を暴かないとな。


相手を知らないことには、対処のしようがない。


前頭領の言葉を不本意ながらも心中で呟き、

なるべく心を落ち着かせる。


「お前、オレのことをどこまで知ってるんだ?」


そう問えば、「さあね」と肩を竦められる。

そして楽しげに微笑んだ。


「敵のことを知らずに接触なんて、愚かだからね。大体は知っているよ」


大体……ね。


「へえ……」


確かに、その通りだ。

まずは相手の力量を知らなきゃ話にならない。

何も考えずに乗り込むなんて、愚か者のすること。



…けど、オレの情報は中々手に入れにくいはずだ。


水軍のことはまだしも、

オレが“兎街グループ”の社長だってことは、特にね。


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