キオクノカケラ
「ああ」


最前列に偉そうに座ってる、人が出品される時しか来ない奴。

しかもその時出品された人は、みんな落札されて行く。


今回もパンフレットに載った詩織目当てで来たんだろう。

さっきから顔が綻んでるしな。


「頭領。やるべきことは……――」


「ああ。分かってるよ」


あんな野郎に詩織を渡す気なんて更々ないね。


オレは不敵な笑みを浮かべると。

5000万以上を出す奴がいなくて、もう決まりだと手を高く掲げた司会者に

オレははっきりと言って、それを制する。


「待ちなよ。オレは6000万出すぜ?」


「6000万が出ました!他にはいらっしゃいませんか?!」


「ふん…7000万」


涼しい顔で言ってはいるが、微かに焦燥の色が伺える。


オレは腕を組んで、壁に背中を預けた。

オレと張り合おうなんて……

100年早いね。


「一億」


「いっ、一億!!一億が出ました!他にはいらっしゃいませんか?」


「い、一億500万……」


相手も負けじと値段を吊り上げてくるが、大したことない。


「……一億5000万」


「っ!!い、一億55―――」


「二億」


相手が言うのを遮って言えば、ようやく押し黙った。

今までオレたちのやり取りを、面白そうに眺めていた観客も黙る。


…二億なんて出す奴はなかなかいないからな。

けど、オレにとっては二億以上の価値がある。


…いや。

値段なんてつけられないくらいのね。


「に、二億!それ以上の方はいらっしゃいませんか?!」


当然、二億以上を出す奴はいない。


カンッカンッ!!


「“囚われの人形”48番が二億で落札です!!」


そう司会者が叫ぶと、詩織はまたステージ脇に連れていかれた。


「章、オレは詩織を連れてくるから手続き頼む」


「分かってますよ」


章に手続きを頼んで、会場のドアを開けた。


出ていく際に、悔しそうにオレを睨んでいた社長に、

不敵な笑みを送って。


ホント、オレと張り合おうなんて

100年以上早いよ。


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