キオクノカケラ
足音が聞こえる……。

だんだんこっちに近づいてくる。


…誰だろう。

またあの男?


何回言われたって答えは同じ。


売られても構わないから。

結城くんを始末なんて、

私にはできない。


足音は私の前で止まった。


きっと、私を落札した人なんだ。


私を

………連れていくんだ。


最後に、結城くんに逢いたかったな…。


重い瞼を持ち上げて、目を開くと。


「あっ……」


そこには、あの男でもなく。

全く知らない人でもなく。


私の一番逢いたかった人………。


「結城……くん?」


彼が心配そうに私を見つめていた。


「ああ。そうだよ」


「結城くん……」


そっと彼の方に手を伸ばせば、何か固いものに拒まれた。


「今出してやるからな。
…おい」


「は、はい!」


ガチャガチャと鍵が外されて、私はようやく出ることができた。


けどまだ体に力が入らなくて、倒れそうになった私を

結城くんが受け止めてくれた。


「大丈夫かい?」


「うん…ちょっと力入んなくて」


困ったね…と苦笑すると、結城くんの瞳が一瞬哀しそうに揺れた。


「………な」


「え……?」


そして何かを呟くと、私の膝の裏に手を入れて、持ち上げられる。

いわゆる“お姫様だっこ”。


「ちょっ…結城くん!!私重いんだから!!降ろして!!」

なんだか恥ずかしくて、

あまり力の入らない体で、必死に抵抗するけど。


「重くないよ。……それともオレに抱えられるのはご不満?」


「………そういう訳じゃ……ない、けど」


私の苦手な哀しそうな微笑みに、何も言い返せなかった。


「それじゃあ、行こうか」


結局、このまま路地裏みたいな所を通って車に乗り込む。


車に乗ると、何だかさっきまでの緊張が解けて、

急に体が震え出した。


「詩織……」


結城くんがそれに気づいて、私の顔をまた心配そうに覗き込む。


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