キオクノカケラ
「私が思っているより楽しくないかもって言いたいんでしょ?」


「大丈夫。それはないよ」


にこりと微笑みながら手を降ろすと、

結城くんの手も一緒に降ろされた。


結城くんはしばらくこっちを凝視していたけど、

切なそうな表情をして口を開いた。


「どうして、そんなことが言えるんだい?」


いつもより少し低い、掠れた声の結城くんに正直驚いた。


そんなの、結城くんが一番よく分かってると思ったから。


「“どうして”って…恵たちがいるから」


「恵?」


そう。

初めて会ったとき、私を見て抱きついてきた。

涙ながらに私との再開を喜んでくれて。

私の記憶がないと聞いたときは、ショックを受けていたみたいだけど……。


「あんなに暖かい人たちがいるんだもん。私の学校生活、大したものだと思わない?」


少し自慢気に笑ってみせると、彼はしばらく止まって、また顔を附せた。


な、なんか今日の結城くんヘンだな……。

どうしよう………。


………………。

これも言っといたほうがいいかな?

……よし!


「あ!あとね、もし万が一楽しくなかったら、私の高校生活を乱してる奴をぶっ飛ばして、楽しくするよ?」


慌てて付け加えると、結城くんの肩が微かに震えた。


「結城、くん………?」


心配になって顔を覗き込もうとした途端。

勢いよく顔が上がった。

そして彼は


「ぷ…あははは!!」


勢いよく笑いだした。


一体何なのーー?!


「ゆ、結城くん…?」


「はは…くすくす、悪い悪い。ちょっと意地悪言ってみた」


笑いすぎて出たのだろう涙を、拭いながら爆笑する彼を

私はただ口を呆然と開けて見ているしかなかった。


でも笑われてるだけじゃ性に合わない。

何が面白いのか聞き出さないと!


私は心の中で握った右手を高く掲げると、怪訝そうに眉を潜めて彼を問い詰める。


「何がそんなに面白いの?いきなり笑いだすなんて………」


それでもまだ笑ったまま、結城くんは答えた。


< 78 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop