キオクノカケラ
「…………」


どうも気まずい沈黙が続く。

もうそろそろ日が暮れるな…


今日は雲ひとつない青空だった、

きっと、夕日が綺麗だろう。


詩織は、ここから見える夕日が好きだったな…。


「あの…」


先に沈黙を破ったのは章だった。


「夕日を…見に行きませんか?」


「夕日…か」


それは、気分転換に行こうという意味なのだろう。


幼なじみとはいえ、部下に気を遣わせるなんて…


「…頭領の名が泣くね」


ぼそりと呟いた言葉は聞こえなかったのか

聞かなかったことにしているのか


章はドアを開けて、横に控えた。


「参りましょう」


「ああ」


オレたちは、部屋をあとにして、商店街の向こうにある、

展望台へ向かった。

商店街は買い物客で、ガヤガヤと賑わっている。

人混みに入るとつい、あいつの面影を探してしまう。


桜色の髪の女なんて、そうそういない。

見かければすぐ分かるはず



ふと、目の端にピンク色のサラサラしたものが映った。


「あれは……っ」


前方にあるスーパーに目をやると

自動ドアの前に、よく知る少女の姿があった。


夜明けの色をした瞳

淡い桜色の髪


透き通るように白い肌


あの、懐かしい横顔


間違いない


「詩織………?」


彼女は少し驚いたような顔で、こちらに振り向いた。


ずっと、探してた




……愛しい人……


考えるより先に、体が動いていた。
< 8 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop