キオクノカケラ
リビングに入ると、結城くんがテーブルに目玉焼きを置いているところだった。

しかもバッチリ目が合ってしまって。

何となく気まずくて、もう一度頭を下げる。

「お、おはよう。結城くん」


「ああ、おはよう」


すると、彼は優しく微笑んで挨拶を返すと、目玉焼きの向きを直した。


えっと………。

何かしたほうがいい…、よね。

うん!


「あ!私も何か手伝おっか?」


パンッと手を打って、結城くんに近付くと。

ゆっくりと結城くんの綺麗な顔が近付いてくる。


「へ?ちょっ…待っ………!!」


あからさまに顔を背けて、一歩下がると。


「動かないで」


耳元で聞こえる息遣いと、声。


またキスされる…!?


反射的に目をぎゅっと瞑って、拳を握ると。

何かが髪の毛に近付いて触れた。


唇には何も触れない。

勇気を持って、そっと目を開けると。


「くす、何を期待してたんだい?」


からからと笑いながら、摘まむように白い糸を、私の顔の前で泳がせている結城くんの姿。

もしかして私に近づいたのって………。

それを取るため……?


それが分かった途端、一気に顔に熱が集まってくる。

勝手に勘違いして。

勝手にドキドキして。

恥ずかしさのあまり、両手で頬を挟みこんで勢いよく後ろに振り替えった。


何考えてんのよ私!!

あーもう!

絶対期待してると思われたよね………。

あ………思われたも何も、

“何期待してたんだい?”

って言われちゃったし!!!

あー恥ずかしい…。



一人で頭を抱えながら自問自答…というよりも一人コントしていると。


背後からすごい視線を感じた。

見られてる…。

そっと目線だけを動かして見ると。

熱心に私を見つめていた。


「な、なに…かな」


控え目に尋ねても、結城くんはただただこちらを見つめるばかり。


またなんか付いてるのかな?

それとも着方間違ってるとか?!


慌ててスカートをバサバサと振って、自分を確認する。

けど特に問題は見当たらない。


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