キオクノカケラ
「7月10日、午後4時27分。
飛行機墜落事故発生。
乗客及び乗務員500人あまりが死亡、もしくは行方不明」


淡々とした口調で部屋に響く結城くんの声に、

一斉にみんなの視線が彼に注がれた。


「な、何よいきなり」


「この事故の原因、当然知ってますよね?
秋さん、あなたなら」


「……どういう意味かしら」


不敵に微笑む結城くんに少したじろきながらも、笑みを崩さない叔母さん。

平静を装っているんだろうけど、微かに顔色が悪い。


でも、一体どういう意味なんだろう……。

事故の原因って。


「そのままの意味ですよ」


彼はにこりと笑いながらゆっくりと叔母さんに近付く。

そして何かを囁くと、叔母さんの目が見開かれて、顔が驚愕に満ちた。


結城くんがそっと傍から離れれば、彼女はその場に崩れ落ちた。


「叔母さんに何を言ったの?」


こちらに歩いてくる彼にそう問いかけると。

勝ち誇った笑みを浮かべて私の手をとった。


「ふふ、ちょっとね。
忠告してあげたのさ、親切に。
詳しく、ね」


「忠告……?」


きょとんと首を傾げると、私の手を引いてさっさと歩きだす。


「え?ちょっと…結城くん?!何処に……――」


行くの?と言うよりも早く、章さんが答えた。


「家に帰るんですよ」


「ご名答」


帰る?!

まだ遺産の話は終わってないんじゃ――。


「ご両親の遺産は、すべてあなたのものになりますよ。詩織さん」


まるで私の心を読んだかのように微笑む章さんに、結城くんも同意する。


「ああ、これでお前は正式な遺産相続人になれる」


「へ?
え?!」


いきなりのことに驚いて、結城くんと章さんの顔を代わる代わる凝視している間にも。

書類にサインだ、銀行がなんだ、弁護士がどーたら……。

ペラペラと意味の分からないことを早口に聞かされて。

気が付くと目の前の書類に判子を押していた。


< 93 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop