リナリア
...が、私の声を無視して男の人は歩く足を止めようとしない。気のせいなのか分からないが、地味に速度が上がってる気がする。
「あの!すみませーんっ、学校そっちじゃないよー!ねぇってばっ!」
何を言っても止まってくれない男の人に軽く苛立ちを覚え、最終手段の相手の所まで走り腕を掴む手段を実行した。
すると、おどろいたように目を見開いて私を見てきた。
でも、その目はすぐに私を睨むように鋭い視線を私の体に刺した。
「お前、変わってるな。学校、遅刻すんぞ。」
やっと聞けた彼の言葉は、褒めてるのか悪口なのか分からないものと、私を心配する言葉だった。
遅刻、という単語を聞き携帯の時計を見てみると、門が後5分で閉まってしまうことに気が付いた。
周りを見渡してみると一緒にいたはずのくーちゃんは、既にいなかった。
「(置いて行きやがったな。)」
そんなことを今さら考えても時間の無駄で、私は学校の方に体を向け男の人を見て、
「学校!行かなきゃダメだからねっ」
と、最後の忠告をして、私は学校まで全速疾走した。
――――キリトリセン――――
キーンコーンカーン...
SHRが始まる鐘と共に教室の扉を開けた。見慣れない顔のクラスメート、新しい担任の先生がそこにはいた。父親譲りの運動神経のおかげでギリギリ間に合った、のかな。
「今回は見逃してやるから早う座れ。」
先生の言い草的に、私はアウトだったらしい。
扉の所で突っ立っていた私に先生が指で私の席を指し、座れ、としつこく威圧感を出してきた。
私の前の席には、くーちゃんが静かに本を読んでいた。悠々と涼しげな顔で本を黙々と読むくーちゃんを見て、この野郎、と思ったのは内緒だ。
私は何も知らない関係ない、と言ってるようなくーちゃんの背中に向かって「ばか」と呟いた。