リナリア
「えー...と、ほんじゃまぁ、今年からの転校生紹介するわ。入ってええで。」
先生の言葉を合図に教室の扉がガラッ、と音を立てて開いた。
教室中の空気が、ピリピリ、と肌を刺激する。生徒たちは怖い、だの不良、だの。はたまた格好いい、と意見を口々に感想を述べている。
だが、私だけはポカン、と開けた口を閉じれずに固まっていた。
黒板の前に立ち、チョークを握り自分の名前を書いている転校生の姿は、軽く着崩された制服に、髪の毛は茶色と黄色の間くらいの明るい色。
見た目は不良の分類に入るだろう。
「親の都合でこっちに来ました。若葉一也です。」
その人は紛れも無く、今朝会った“男の人”だった。
「えー...と、若葉の席は、桜場の隣でええな。」
先生は、そう言いながら窓際の1番後ろという最高なポジションを指差した。
席に着いた若葉一也くんの前に右手を差し出し握手を求める。
「一也くん...でいいかな?今朝はありがとう。これからよろしくねっ」
一也くんはただ私を睨み、前に出した右手をパシッ、と叩いた。
この視線を反らしちゃダメだ、という勝手な思いを抱き、私も負けじと一也くんの瞳を見つめた。
すると、一也くんは呆れたように溜め息を吐いて重い口を開いた。
「呼び方なんでどうでもいい。だから、俺に一切関わるな。」
なんで、と疑問を一也くんに投げかけるが、一也は何も言わず空をただ真っ直ぐに見つめていた。