リナリア
一也くんは何も言わず、卵焼きをひょいっ、とつまんで口まで運んだ。
今日の卵焼きは試食無しで入れたから味に自信がなく、一也くんの次に出てくる言葉が気になって仕方なかった。
「...おいしい」
たった一言。そのぶっきらぼうな一言で私は胸が弾むくらい嬉しくなった。
私の口元は緩んで、だらし無くふふっ、と口から笑みが零れた。
一也くんは、子供のように口元に卵焼きをつけてピザパンを頬張っていた。それがまた可愛くて口の端が上がるのがわかった。
私は、ふと思ったことを実行しようと行動にしようと考えた。一也くんの頬に手を伸ばし、ちょん、とついていた卵焼きを取って自分の口に運んだ。
「(うん、今日の卵焼きも美味しく出来た)」
自己評価をつけて、一也くんを見たら、豆鉄砲を喰らった鳩の如く驚いて固まっていた。
それにまたふふっ、と笑い私は笑いながら言った。
「やってみたかったの、こーいうことっ!私の周り、しっかり者しかいなかったから取って食べるのって憧れだったのっ」
少し恥ずかしくてえへへ、と笑ってアスパラガスを口に運んだ。
一也くんは俯いていて顔色は分からないが、不思議と一也くんは今、怒ってはいない気がした。