神の雫


華やかな音楽が流れるホール、自分を取り囲むご令嬢の輪を笑顔で華麗にかわすと、青年は一人、中庭へと抜け出した。

ふぅ、と息をはき目を閉じると、遠くからきこえるさざ波の音。
幼き頃より耳に慣れたその音は、やはり心地いい。

さらりとしたブラウンの髪を夜風が優しく揺らしてゆく。
空を見上げると、澄んだブルーの瞳に、丸く輝く月がうつった。

今夜の月はなぜか違ってみえる…
私の気のせいか?






「レイン王子みーっけ!」

「!!」

思わずビクリと振り返ると、そこにはにやにやする青年が一人。




「こんなところにいていいのかな~?」

「なんだ、ヴァンか。かまわん、一通りの挨拶はすませたさ。」



ヴァンが優雅な足取りで近づいてきた。


「なーにが済ませただ。ご令嬢方がものすごい形相で探してたぞ?」

「…わかってる。だから抜け出してきたんじゃないか。
というか、ヴァン、あの半分はお前を捜す群れだろうが。」

「ふふん、まぁな♪」

ヴァンと呼ばれた青年は微笑みながら、手にしていたグラスを揺らした。


そしてレインの隣に腰をおろすと、レインが再び大きく息を吐いた。


「まったく、なぜ父上はこのような時にこんな宴を」

「そりゃあ、世継ぎのお前によき伴侶をみつけてやるためじゃねーの?」


「だから、なぜ今なんだ。今の我が国の状況は、ヴァン、お前も知ってるだろう?
こんな時期に」

「こんな時期だからこそでしょ。お前の身を固めさせて地盤をしっかりとしておきたいんだろ。」

「ふん、余計なお世話だ。それに、私の妻になるということは、この国の時期王妃になるということ。それなりの器がなければつとまらん。」

「だからー、今回の宴に呼ばれたのは王族や貴族の…」

「身分の問題じゃない。」

ヴァンの言葉を遮ると、レインはきっぱりといい放った。

「資質の問題だ。」

真剣なレインの横顔に、ヴァンは微笑むと、グラスを置きぐぐっと伸びをしながら言った。

「お前は真面目だなー。そんなんじゃ疲れるだろ。もっと肩の力を抜いたほうがいいぞー?」

「ヴァン、お前は抜きすぎだ。」

「そうかぁ?これぐらいが楽だけどなー」

一瞬、ヴァンの顔に影がさしたような気がした。

「ヴァン?」

「ん?」

こちらを向いたヴァンは、いつも通りの微笑みを浮かべていた。

気のせいか?



その時だった。
レインは急に自分の鼓動が早くなるのを感じた。

!?なんだ、これは?


隣をみれば、ヴァンも胸を押さえている。

レインはなにかに引かれるように、空を見上げた。
自分でもよくわからないままに、何かを探して目が空をさ迷う。

なんだ?私は何を探している?
















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