神の雫
「…ん……」
ゆっくりと開いたその瞳がレインの姿を捉えた。
ぐんっ
とたんに消えた淡い光と、急に腕に課せられた彼女の重さに、レインは思わずよろめいた。
「きゃっ」
とっさに彼女がレインの首に抱きついた。
そのまま倒れずにすんだのは、普段からの鍛練のたまものだろう。
体勢を建て直し、腕の中の少女に目をやると、彼女ははっとしたように、慌ててレインの腕のなかで暴れだした。
月明かりでも分かるほどに蒸気した頬から察するに、恥ずかしいのだろう。
ゆっくりと下ろしてやると、彼女はさっとレインと距離をとり身構えた。
見たこともない構え。だがしがし、その表情と殺気。
あきらかに警戒している。
そして驚いたことに、年端のいかぬ少女とは思えないほどの隙のなさ。
「ほぉ。すごいな」
レインが思わず呟くと、彼女が驚いたように反応した。
「!!言葉、わかる」
彼女が発した言葉に今度はレインが反応した。
「言葉が通じるようだな。」
人…ではあるのか?
レインの中でそんな葛藤がされているとは、彼女は思いもしないだろう。
「あなた、誰?
あたしをどうしようっていうの!?」
「?」
「あたしを誘拐したんでしょ!!」
少女の口から飛び出した問に、レインは一瞬固まった。思考が追い付かないという状態を初めて体験した。
ーーは?誘拐?
意味がわからない。
「いや、私は、お前を助けただけだが」
「へ!?」
「落ちてきたお前をキャッチしてやっただけだが」
「は?落ちてきた?」
今度は少女が固まった。
なにかを思い出したようにゆっくりと空を見上げ、そして驚いたように目を見開いたかと思うとそのままどさりと倒れた。
「…!!おい!」
レインは慌てて駆け寄った。
「気を失ったか。」
抱き上げると、少女の温かい体温が伝わってきた。
いったいこの少女は何者なのか。
少女を抱いたレインは宮殿の方へと向かったのだった。