神の雫
「おばあ様!!」
鈴蘭は勢いよく立ち上がると、微笑む祖母に抱きついた。
「おばあ様、大丈夫なの??」
「ええ、可愛い孫の晴れ姿、みないなんて勿体ないわ。大丈夫、ちゃんとお医者さまからも外出許可をいただいてるわ。」
微笑む菊乃は、また痩せたように見えた。
「ねえ、鈴蘭。
もう、私はこの結婚についてどうこう言うきはありません。いくら反対してもあなたの決意は固かった。
でもね、これだけは覚えていて?
私が望むのはあなたの幸せだけ。
観ノ宮家の存続なんてどうでもいい。いざとなれば、すべてを売り払ってもいいの。
私のせいで鈴蘭を縛りたくはない。
もし、もし嫌なことがあったら、その時は迷わず帰っておいで。
観ノ宮家なんてなくてもいい。
私とふたり、静かに暮らしましょう。」
菊乃はそう言って、愛しい少女の手を握りしめた。
可哀想に、緊張と不安からか、いつも温かい少女の手が、今日はこんなにも冷たい。
しわしわの手が、少女の冷たい手を何度も何度もさすり、握りしめる。
「その時は、わたくしめもどこまでもお供いたします。」
菊乃のそばに控えていた小峯が、にこりと笑った。
「…ありがとう。
おばあ様、小峯。」
菊乃に包まれた手から伝わる温かいものは、鈴蘭の心も、ほんのりと温めてくれたようだった。