私の空・僕の先生
突然の訪問者
 それは、本当に突然のことだった。

学校が休みの日の午後、私は彼氏とのデートの為に、準備をしていた。

玄関のチャイムが鳴り、私は急いで、ドアを開けた。

玄関の前には、空が立っていた。

「どうしたの?藤田君」

空は俯いたまま呟いた。

「あのさ、先生にちょっと、相談があって…」

私は、玄関に置いてある時計をチラッと見た。

…約束の時間に、遅れそう…

「ごめんね、藤田君、今日はこれか大事な用があるの。」

そう言うと、空は、目を潤ませた。…困ったな

「先生、用事が済んでからでいいから、聞いてくれる?」

「…遅くなると思うんだけど…」

「全然いいよ。」

空は笑って言った。

いつも、ツンケンした態度の空とは別人に見えて、私は困惑した。

「…分かった。用が済んだら連絡するから、携帯の番号教えてくれる?」

空は、左右に首を振った。

「今、携帯、修理に出してて、まだ直らないんだ。…ここで、待ってたら、ダメ?」

わたしは驚いた。

家で待たせるなんて、できないよね。

…そんなに、深刻な相談なのかな。

私は少し考えた。

久しぶりの約束を断るわけにもいかないし…

カワイイ生徒の相談にも乗ってあげたいし。

私は決断した。

「わかった。何時になるかわからないけど、早めに帰ってくるから、ここで待ってて。帰ってきたら、ちゃんと相談に乗るから。帰りたくなったら、帰ってもいいように、合鍵置いとくね」

空は嬉しそうに頷いた。私は、空を残して、待ち合わせ場所に急いだ。

「あっくん、待たせてごめんね」

私が手を合わせて謝ると、彼は笑顔で許してくれた。

…彼の名前は、前田敦。私と同じ高校に務める体育の教師。

3つ年上だけど、時々見せる子供っぽいとこが好き。

でも、学校では、クールなイケメン先生で通っていて、女子の人気者。

「そんなに汗かいて。急いで来なくても、映画まで時間あったのに」

ハンカチで、そっと私の汗を拭いて、頭を撫でた。

私はすくし頬を赤くして、舌を出した。

「そろそろ行こうか」

「うん」

私はすっかり空との約束を忘れて、気が付くと、9時になっていた。

…帰りたくなったら、帰るように言ってあるから、もう帰ってるかな。

私はしきりに腕時計に目を落としていた。

< 3 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop