初恋タイムスリップ(成海side)
12歳男子、高度難聴、3歳より人工内耳装用
……それしか情報がない。
「熊野先生、風也が中学から聾学校に入りたいって聞かないんです。
先生からもなんとか言ってください」
母親はいきなり、風也くんを診察していた熊野教授に気持ちをぶつけてきた。
「前回もそう言ってましたよね。
どうだい。風也くん。
気持ちは変わらないかい?」
風也くんは頷いた。
「なんで!!」
お母さんは風也くんの膝を軽く叩いた。
「成海先生」
「はっ……はい」
いきなり熊野教授に呼ばれてびくっとしてしまった。
「成海先生も、何かアドバイス」
え……俺?
母親はまたぶつぶつと言い出した。
「普通小学校で6年間やってきたけど、
勉強についていけないってことないんですよ?
むしろできる子なのに。
なんでわざわざ聾学校に…」
「じゃあ…ついていけなかったら聾学校だったんですか?」
俺は素朴な疑問を母親に聞いてみた。
「え?まぁ…そういうことになるわね。残念だけど」
俺は熊野教授が見ていることも忘れて、母親に語り始めてしまった。
「それは違うと…自分は思うんです。
普通学級についていけない難聴の子のために
聾学校があるわけではないと思うんです。
私立をお受験するのと同じです。
聾学校はひとつの選択肢にすぎない。
選んで行く学校、行きたいから行く学校です」
母親は黙り込んでしまった。