初恋タイムスリップ(成海side)
「今の言葉、優くんが聾学校選ぶ時にも、お母さんに言ったらしいね。
『聾学校はひとつの選択肢だ』って。
診察の時、君のお母さんから聞いたよ」
………熊野教授、俺が優の兄って知ってたのか!!
「だからね、成海先生呼んでもらったんだよ。
さっきのお母さん、昔っから聾学校大反対だったから。
息子が行きたがっているのに。
だからね、成海先生なら、僕よりも説得力があっていいんじゃないかなってね。
人の心を動かすのって簡単じゃないよね。
でも、きっとさっきのお母さん、
心を動かされたと思うよ。
それに今まで頑なに理由を言わなかった風也くんが、君には心を開いた。
なぜだと思う?」
熊野教授は俺を見た。
「君が心を開いたからだよ」
熊野教授は大きな体を揺らして、ふふふっと笑った。
そして椅子から立ち上がって俺の前に立った。
「あれ、僕よりも背が高くなっちゃったの?」
ふふふっと熊野教授は笑った。
「待ってたよ。ずっとここで。
弟の小さな傷口に驚いていたお兄ちゃんをね」
ふっふっふっと笑いながら教授は歩いて行ってしまった。