初恋タイムスリップ(成海side)
熊野教授に近づけた日から、
俺は何かを掴めたような気がした。
今度家に帰った時は、ちゃんと優に、自分の気持ちを伝えようと思った。
患者に対する気持ちも、話しかけ方も変わってきた。
今まで俺は、事務的に教科書通りに、
ただ診察をしていた事に気がついた。
1番大切な事は何か。
熊野教授は、本当はそれを俺に伝えたかったんじゃないかと思った。
自分の仕事に対する意識が変わってから、
患者が世間話をしてくれるようになった。
「成海先生ご結婚は?」
「あら、独身?」
「恋人はいるの?」
質問攻めにあうこともしばしば。
そんな質問をされると、やっぱり思い出すのは、
美音のことだった。
大学に入ってから女の子と出会いもあったけど、
好きという気持ちにまでは、ならなかった。
今は仕事が忙し過ぎて恋愛どころではない。
美音は……
美音は今、幸せに暮らしているのだろうか……
時々そう思い出しては、また胸の奥にしまい込んでいた。