初恋タイムスリップ(成海side)
俺が、ピアノに近づくと、
桜木は、ピタッとピアノを止めた。
「あ・・練習中にごめんな」
そう、声をかけると、
桜木はぶんぶんと勢い良く首を左右にふった。
ぐーっと下をむいてしまった桜木。
椅子に座ったまま、自分のブレザーの裾を
ぎゅっと握っていた。
なんか俺・・怖がらせてるのかな・・
「あのさ。俺、指揮ってやったことなくてさ。
桜木・・やり方わかったら、おしえてほしいんだ」
俺は、指揮棒の持ち手を桜木に向けて
差し出した。
桜木は、そっと指揮棒をつかんで、
「123412・・」
と、座ったまま、指揮棒を振り出した。
「ちょ・・ちょっとまって。
ごめん・・・もうちょいゆっくり」
そう俺が言うと、桜木はゆっくりと俺の隣に立った。
「1 2 3 4 1・・・」
ゆっくり振ってくれた桜木の横に並んで、
俺もゆっくり人差し指を出して振ってみた。
「はい」
桜木が俺に指揮棒を返してきた。
俺は指揮棒を振ってみた
こう、こう、こう・・あれ?
こう・・あれ。。。
すると、桜木が俺の右手に手を添えてきた。
「1 2 3 4 あっ」
そう言って、パッと手を離した。
「いいよ。一緒に持って教えてよ」
俺は、桜木の手を持って、また俺の右手にのせた。
そして、桜木に手を添えられながら練習したおかげで、
俺は、4拍子の指揮を習得したんだ。
桜木の横顔が耳まで真っ赤になっていることに気づいたけど、
きっと、俺の方が真っ赤なんじゃないかって思ったら、
なんか・・・
そんな自分がおかしくて、笑ってしまったんだ。