初恋タイムスリップ(成海side)
それから、お母さんに誘われるがままに、
東京に行く事になった。
『良には秘密よ。驚かせるんだから!』
と、お母さんと約束したため、成海くんには何も言わずに決めちゃったけど、
本当にいいのかな……
いつか白衣姿の成海くんを見てみたいと思ってはいたけど……
楽しみな気持ちとちょっと不安な気持ちで、優くんとお母さんと一緒に新幹線に乗り、東京へ向かった。
優くんは、何も言わずにそっと私の荷物を持ってくれたり、
さっと扉を開けて先に通してくれたり、
高校一年生とは思えないほど、色んなところに気がつく、しっかりした礼儀正しい子。
いつも穏やかな笑顔で、その笑顔は本当に成海くんによく似ている。
お母さんに対しても、優しくて、まるで恋人同士のよう。
優くんは人よりもずっと、苦しかったり辛かったり、
傷ついたり……
大変な事も多いだろうけど、
きっとその分、
人一倍相手の気持ちを考えられる
優しい心を持っている。
『優』という名前が、ぴったりの、優しい男の子だと思った。
最初、優くんの言葉がよくわからない事が多かったけど、
最近は、だいたいわかるようになってきた。
電車の中では、手話講座。
優くんに手話を教えてもらって、少しずつ覚えてきた。
指文字、数、挨拶、気持ち、
そしたら移動時間の5時間半はあっという間で、
気づくと、車窓から見えたのは、緑豊かな田舎の風景ではなく、灰色のビルだけになっていた。