初恋タイムスリップ(成海side)
しばらくまた座って待っていると成海くんが戻ってきた。
成海くんが私の椅子の横にしゃがんだ。
「はい」
成海くんはそう言って、私の手に鍵を持たせた。
「合鍵。場所は病院のすぐそばだから。母さんに聞いて。
帰りは夜中になるから、先に寝てな。
じゃあ…また後でな」
成海くんは立ち上がって、また階段の方へ行ってしまった。
私は手の中にある鍵を見つめた。
「お待たせ」
頭の上からお母さんの声がして、顔を上げると、
優くんたちと一緒に、さっきの言語聴覚士も立っていた。
私も立ち上がり、お母さんの後ろに行った。
「初めまして。STの矢島(やしま)です。
成海先生にはいつもお世話になってます。
成海先生、とっても人気があるんですよ、患者さんにも」
患者さんに『も』……
「真面目だし、優しいし、イケメンだから。
狙っていた人、多かったんですけどね。
成海先生、全然そういう誘いにのってこないから、
地元に彼女でもいるんじゃないかって、噂してたんです。
そしたら…」
矢島先生は、私を見て微笑んだ。
「成海先生らしくてホッとしました。
東京に出てきて、医師になって、派手な女の子と…なんて私は嫌だったから。
優くんを小さい頃から担当させてもらって、
そのお兄ちゃんが医師として同じ病院で働くようになって、私にとっても二人は息子みたいなものだから。
今度は結婚ね……
私も歳とったってことね。
でもなんだか幸せ。
じゃあ、優くんはまた一年後ね」
私は矢島先生に深く頭を下げて、
優くんたちと病院を後にした。