初恋タイムスリップ(成海side)
Ⅱ
「えっと・・じゃあ・・」
しばらく考え込んでいた桜木が、
ゆっくりと、ピアノを弾き始めた。
ゆったりとした、優しい、
心が癒されるような、
そんな曲だった。
あれ・・この曲を弾いている時は、
優しい表情をしている。
いつも、真剣な顔で弾いているのに。
この曲はきっと、好きなんだろうな・・
うれしそうな、楽しそうな・・
俺は、この曲を絶対に忘れない。
そう、思いながら聞いていた。
弾き終えると、また静かな音楽室に戻った。
「優しい曲だね」
そう言うと、桜木はまた、
下を向いてしまった。
恥ずかしいのか、俺が嫌なのか、
どっちかな・・
俺は、ピアノから腕を下ろした。
グラウンドを見ると、
ダッシュが始まってしまっていた。
「あ・・ありがとね。また聴かせてよ。
じゃあ・・俺、部活行くから」
そう言って、バッグを肩にかけて、
音楽室を後にした。