初恋タイムスリップ(成海side)


「母さん?大丈夫?」


母さんは、涙をこらえているようだった。


そして

「悔しいの・・・」

そう言って母さんは、唇を噛んだ。



「今日ね、幼稚園に優をお迎えに行ったら、


鬼ごっこをしていてね」



鬼ごっこ?



「優が鬼だったみたいでね。

一生懸命、園庭を走っていたから、

ああ・・仲間に入れてもらえたんだな、

うれしいなって思って見ていたの」



「うん」


「そしたらね。

逃げている子が


『優くんにタッチされたら、

【耳が聞こえないのがうつるぞ!】逃げろ!』


・・って。


そんなこと、優には聞こえないから、

優には、わからなくて、


優は、鬼ごっこに混ぜてもらえたって、

喜んで追いかけていて・・


それを見ていたら、切なくて。


切なくて・・」



「そう・・か・・」





「我慢できなくて、母さん、

言った子を捕まえて、

『どうしてそんなこと言うの!』って

ちょっと強く言ってしまったの。


そしたら、

【絶対優くんには触っちゃダメなんだよ。

うつるんだよ。

僕、絶対に手もつなぎたくない】って。


うつらない。絶対にうつらないって言ったんだけど。


わかってもらえなくて。

幼稚園の先生も

【子供の言っていることだから】って・・


真に受けている母さんが・・

ダメね・・


もっと強くならなくちゃね」



母さんは、エプロンのポケットからハンカチを出して、

顔を覆った。








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